ハーバードER記

Ars longa, vita brevis.

パンデミック

M&Mカンファレンスが終わり、開放感にあふれています。


ということで、今夜は映画へ。"Contagion"というSARSパンデミックをモデルにしたような映画を見に行ってきました。この映画では脳炎ウイルスのパンデミックにより世界中が大混乱し、米国では暴動まで起こるというストーリー。内容は残念でしたが、まあ僕の映画鑑賞レベルはかなり低いので参考にしないで下さいね。


しかし救急医としてはパンデミック対策というのは大事な問題。映画から少し離れますが、
SARSパンデミックから学ぶことは多くあります。ここからはちょっと真面目に。


1918-1919年のスペイン風邪と同程度のエピデミックが米国で起きたと仮定した場合、HHSによると190万人の死亡と1−3千万の入院が起こる可能性がある。日本も同様ですが、米国の救急医療体制はキャパシティーの限界に達していますので、このような感染症に対処することは困難。さらに医療者自体を守るシステムが限られているために、それが死亡率の増加に影響したトロントの例は学ぶところがあります。


このような感染症発生時には医療者が大きく不足する可能性もある。自らもしくは家族が病気になる、または、感染自体を恐れて病院に来ない可能性だってある。医師も人間ですからそういうこともあり、その現実を見据えてシステムを構築する必要がありますよね。性善説(うちの医師は大丈夫とか、医師はパンデミックでも病院に来る「べき」ではなくて)にデフォルトをおいてシステムを構築するのではなく、人間は弱い存在とデフォルトし、対策を練った方がいい。

といっても、米国でもパンデミックにたいする対策を実際に持っている救急外来の数は少ないようです。
Mortonらによる2008年のAnnalsの文献による、以下の15項目は参考になります。すなわち、

1. 病院における計画の存在
2. 救急外来における計画の存在
3. 医療スタッフ増員の計画
4. サーベイランスの計画
5. 患者トリアージの計画
6. 感染防御器具の十分な備蓄
7. 医療スタッフへの計画の周知
8. 職業医学的な計画
9. ボランティアに対する計画
10. 予行練習
11. ワクチンおよび抗ウイルス薬投与の優先順位の計画
12. 人工呼吸器の優先順位の計画
13. 救急外来スペース拡大の計画
14. 患者検疫の計画
15. 大流行時の資源需要の推定

まったくもって地震などの災害対策に通ずるところがあります。災害時には予想外の事態は必ず起こりますが、備え合って憂いなし(なしとまではいかずに、憂いは少なめに)。みなさんの病院ではいかがでしょうか。