ハーバードER記

Ars longa, vita brevis.

北米型救急は必要なのか。

こちらの医療にどっぷりはまっていると、
米国の救急医療のあり方に疑問を感じることが多くなってきました。
(何を今更、という感じでしょうか)。
この国で僕がやっている救急医療、どこまで患者のためになっているのだろうか。



この北米型(ER型)救急医療、日本でも盛り上がりつつあります。
その定義は、北米というからにはACEP (アメリカ救急医学会)を参照すると
Definition of Emergency Medicine
にいろいろと書いてあります。

一言で言えば、老若男女・疾患の重症度を問わず、その初期評価・診断・治療を行うというものですね。


そして自らを米国の医療体制セーフティネット、と規定しています。


まあ確かにそうです。
人口の6人に1人が無保険。
低所得者用の保険(メディケイド)は支払いが悪いために、医師が患者を診たがりません。
さらに医療の根幹であるプライマリーケアの医師の数は専門医より少ない。
そのため新規に医師にかかるのに数ヶ月待つのが常識です。
さらに、かかりつけ医を持っていても、予約は常にいっぱいであり、緊急の受診は非常に難しい。(逆に日本は診療報酬を過抑制しているために、三割負担といっても安い支払いで済む患者側にモラルハザードが起きる。医療供給側には患者を多く頻繁に診るというインセンティブが働きます。このメカニズムは期せずして日本での救急医療の負担を少しは軽減しているのでしょう)
そんな患者さんはどこに行けばいいのでしょうか。
そうです、救急外来しかないのです。


年間に米国で救急外来を訪れる患者は1億3000万人。
年間1000人あたり約400人です。
しかも1997~2007年の間に23%増。
やはり低所得者用保険患者が増加の原因です。



救急医療は社会と地域に密接した医療。
社会システムと医療システムを背景にして、形作られます。
米国で救急医療が「発展」した最も大きな原因はここにあると思います。
あくまで救急医療は、米国の「破綻」した医療システムを背景に受動に発達した。
日本から来た僕には「破綻」しているとしか形容できません。


こんな北米型救急医療。
日本にそのまま外挿できるのでしょうか。
日本に北米型のセーフティネットが必要なのでしょうか。
「アメリカ型」だから、なんとなくいいのでしょうか。
中身が同じだと仮定して「中国型救急」(例えば)という名前だったら、
日本の皆さんはそれでも輸入、導入しますか。


僕は別にNoと言いたいのではありません。
救急医療だけを考えるのでなく、国全体の医療システムを考える必要がある。
その中で救急医療の立ち位置を考えなければいけない。


よく考える必要がある、ということです。