ハーバードER記

Ars longa, vita brevis.

"No"という作法

後期研修が終わったあたりから、
いろいろな依頼を受ける人が多いのではないでしょうか。
例えば、商業雑誌の総説だったり、本のチャプターだったり、レクチャーだったり。



受けた話は断らない"Say Yes" policyもありだと思います。
それを勧める指導医もいますし、それも利点があります。



一方で、人生の時間とエネルギーは限られているから、
やりたいと思ったことを全てやることはできない。選択する勇気と戦略は大事。
何に対して、どうやって、"No"と言うかは重要な問題。




しかし、これも自分が5-10年後にどうなりたいのか、ということによる。例えば、研究者として一人前になりたいなら "say Yes"ポリシーは問題になる、と僕は教わっています。(注:草サッカーレベル研究ではなくて、プロサッカーレベルを念頭にしています)



こんなことを言う人もいます。
「臨床も教育も経営もできて研究ができる人は存在しない。存在するのは、全て中途半端な人間だ。」
(注:もちろん全てバランスがとれる人材もとっても大事ですが、それは別の話題。ここの話題はスペシャリストとして突出したいと願っている人対象です)。



例えば、僕のように普通にレジデント/フェローを修了した医師がプロの研究者になろうとするのは大変なことです。高校野球しかやったことがないのに、転向してプロサッカー選手を目指すこととも言えます(僕はそう思っている)。MPHをとると臨床研究ができると思われる人もいるでしょうが、MPHでは中学サッカーレベル相当だと思います。



米国のアカデミックな病院では、臨床研修後にプロの研究者を目指す奇特な人もいます。
もっともコモンな経路は、

  • 臨床は週に半日〜一日だけに減らし、最低5年は研究に専念する(=給料も同時に80%減になるので研究助成金[採択率20%ほど]を勝ち取らないといけない)
  • その後も臨床などのdutyは半分ほどに減らし研究を続ける(もちろん助成金を勝ち取り続ける)
  • そして、R01グラントを取る(一人前の研究者の証)というもの。しかし、この採択率はここ10年で約50%→約10~15%まで低下。同時に一人前になるのにかかる時間も年々延長しているようです(初めてのR01をとるのは、普通に医学部を卒業した人でも平均40歳代前半)。

甘くありません。
プロの研究者は生活と人生を賭けて仕事しているんだから。



(何か突き抜けたい)若手ならば、有限の時間とエネルギーをレーザーのように何かに集中させる必要があります。セリエAのサッカー選手になりたいならば、野球とバスケのお誘いは断る必要がある、ということ。



そこで、何に、どうやって、"No"というか。
「何にNo」は、やりたいことが分かっていれば難しくはない(はず)。
しかし、「どうやってNo」は難しい。
とくに上司や知り合いの依頼を断るのは難しいことです。



いい方法をこの前教わりました。それは依頼を受けたら
感謝した後に「メンター(指導者)に相談してみます」と返答すること。
真摯で正直(ちゃんとメンターに相談して)である上に、もし断ったとしても個人的には失礼に当たらないはずです。



僕の手の内をばらしてしまいましたが、読者は少ないので大丈夫でしょう。