ハーバードER記

Ars longa, vita brevis.

医学教育、日本のER医雑感

今週から2週間は、エレクティブ。


ブリガムでは主にレジデントに対してのシミュレーション教育がStratus centerというところでやっているのですが、
http://www.stratus.partners.org/
僕は医学生のシミュレーション教育に参加しています。


すでに救急レジデントにはシミュレーションは必須なものと制度化されている米国ですが、ここHMSでは医学部1,2年めの学生にまで(つまりクリニカルクラークシップ前の学生です)行っております。面白いですよね。僕は学士制度で医学部3年めから編入したのですが、3日めからは解剖だったのを覚えています。人体の複雑さに感動したものですが、他の大教室の講義はつまらなかった。発生学なんて大事なのはわかるんだけど、それがどう後に生きてくるのかまったく想像できない。。。昼休みに30分食い込んだS教授にたいする皆の暗黙の怒りを今でも覚えています。


ここでシミュレーションは活躍の場を与えられます。医学部1年生の素人にいきなり下壁/右室梗塞のケースを体験させる。そこで彼らは冠動脈の解剖、心臓の生理学、硝酸薬の薬理学が臨床とつながってくることを実感するのですね。臨床から基礎に下りていくのです。臨床の場にいきなり放り出せばいいという意見もあるかもしれませんが、患者さんのsafety、そして医学生にも快適な場を与えるという意味でsimulationが活きてきますね。




S先生も教育フェローとしてちょうどいらっしゃったので、一緒に勉強させてもらっています。医学部はいって1週間の学生たちにVital SignやシミュレーションをつかってSTEMIや喘息などを題材として臨床のシスマティックアプローチを教える機会をもらっています。教えるって本当に難しい。学生毎にレベルも違い、好奇心の度合いも違う。教育って、その呼吸をみながらのコミニケーション。今日はシステム作りを超えて基礎医学臨床医学のつながりを教えたくて、かなりつっこんでphysiologyをやってみました。皆さんの予想通り、ひいてしまった学生もいたようです。Expectationを高く設定してやってみたのですが、これも反省反省。心に灯をつけるようなeducatorになってみたいですね。


医学教育についてはど素人なのですが、すこしづつ医学教育のvisionなりを考えています。
シミュレーションは医学生教育に上記のように大きなポテンシャルを秘めています。


もう一つの潮流はweb上での教育でしょう。テクノロジーが発達するにつれ、情報/動画をweb上にのせる時間的、費用的、技術的コストはどんどん下がってきています。小学生だって携帯電話あればweb上に動画をのせます。日本中の病院で、素晴らしいカンファレンス/講義をしている救急部または個人が、簡単にそれを発信することができるようになります。それをいままで孤独に診療にはげんでいた各地のER医が簡単にアクセスし、つながり、勉強できる、高め合える。素晴らしいことですよね。近い将来、web上で生中継のカンファが開かれ、つながっている人間が同時に議論できる日が来ることでしょう。あんまりいい講義があったら、医学生がますます学校に来なくなりますかね。。。


web評論家の梅田望夫氏が言うように、今までのような「情報の希少性をコントロールすることによって、情報の価値を高めよう、守ろう」という概念はもう発展しないでしょう。もやはMITの授業でさえweb上に無料で提供されています。web上では同じような志をもつ人々が情報を発信し、共有し、つながり、高め合うことができる。どこそこの大学だから、ここの研修病院卒だからなんて、狭いしがらみを超えて、「大衆の叡智」を結集した形が個人的な理想です。これが21世紀のパワーとなるはずです。


医学教育にもそんな日が来るはずです。そして日本の救急医療の発達を加速させる一助になると信じています。