ハーバードER記

Ars longa, vita brevis.

ヘルスサービス研究:救急外来の喘息患者

米国は広い国なので(地理的にも、文化的にも、そして格差も)、
一言でまとめると、だいたい間違えます。僕もボストンの上澄みしか知らないので、米国の5%も理解できていないはずです。


でも医療については
「アクセスが悪く、コストが高く、そして質が低い」の三重奏
ということで、大きくは間違っていないと認識されています(もちろん例外は多々あります)。
料理屋でいえば、並ぶのに、高くてマズいレストラン?


そこでこの3点に注目するのが、ヘルスサービス研究ですね。
アクセスを向上し、質も上げ、かつコストも安くする必要があります。
早くて旨くて安くないと。


そこで日本の現状はどうでしょうか。
わかっていないこと多いんじゃないかな、と想像します。
その第一歩は、現状把握ですね。
店頭調査して問題を同定しないと議論のしようがない。


救急研究ネットワークでは、以前紹介した気道管理研究に続いて多施設の喘息研究が行われました。
今度はJEAN-3チームによる全国23施設後ろ向き研究です。


背景:喘息というのはコモンな割に、多くの救急医が興味をもちません。吸入してもらうのが主なので面白みにかけるのでしょうか?しかし、日本全国に何百万人という患者がいます。そしてこの慢性疾患は管理をしっかりすれば急性発作をかなり抑えることができるのです。そうですね。救急に来る喘息患者=管理に失敗した患者なのです。これを研究することは公衆衛生上とても大事。


目的:1380名の喘息患者さんから多くのデータを集めていますが、この論文
"Quality of Care for Acute Asthma in Emergency Departments in Japan: A Multicenter Observational Study"
では救急での喘息治療がどれほどガイドラインに則っているかを調査しています(喘息はガイドラインに沿った治療をするとよくなることが分かっている)。


結果:患者さんレベルでも施設レベルでも、おおきなガイドライン遵守度に違いがあることが分かります。特に全身ステロイドの投与あたりはかなりの改善が必要なはず。他にもいろいろ。
施設の因子として遵守度と関連したのは、喘息患者数。患者数と医療の質の関連は他の疾患でも知られています。しかしその機序は間違いなく複雑であり、患者数を増やせば質が上がる、なんて単純な話のはずはありません。質が上がれば患者数が増える?、それもこの分野ではなさそうです。おそらく同定できない医師/患者/システム因子の代理として、患者数が簡単に把握できるというだけ、という可能性のほうが高い。興味を持ったら、論文、読んでみて下さい。面白いですよ。


基本的には、米国の研究と同様の結果。
格差の原因にいくらかの違いはあるはずですが、日米似た課題を持っています。
あなたなら、どうアプローチしますか。