ハーバードER記

Ars longa, vita brevis.

職探しの注意点

早いもので今年のレジデントも卒業まであと数ヶ月。寂しいものです。
みな就職先が決まり、ほっとしているがよくわかります。


「就活」を知らない僕はレジデントに教えてもらってばかり。
例えば、契約文書をかわす際にときには弁護士!をいれて交渉するというから驚きです(そういえば、僕らの研究でもこれに大金を払っていた)。他に注意点としては広告。


医師募集広告の謳い文句の真意は

  • 風光明媚でアウトドアが楽しめる!→ど田舎の病院
  • 症例数が豊富!→米国の陰を背負う市街地の病院(群病院など)
  • スタッフが仲良しで雰囲気がいいぞ!→でもシフトは多いよ。

などなど他にも沢山。半分本気の冗談ですな。



逆に、雇う側からみると(上司が言うには)

  • 客員なんとか(= visiting professorとか)→レクチャーして貰った箔付け。
  • 卒後すぐに大学病院で「attending」(= 指導医)と強調:フェロー(=パートタイム)だったことを伏せている。
  • 学会発表 vs. 原著論文の比率が高い(例, 3:1以上):研究するなら危険信号。

ここら辺は注意しているようです。
米国人は見栄っ張りな人多いですからね。周りの人には不思議と伝わっているのは世界共通ですけど。


実は気づいていないのは僕自身なのかも。。。

ヘルスサービス研究:救急外来の喘息患者

米国は広い国なので(地理的にも、文化的にも、そして格差も)、
一言でまとめると、だいたい間違えます。僕もボストンの上澄みしか知らないので、米国の5%も理解できていないはずです。


でも医療については
「アクセスが悪く、コストが高く、そして質が低い」の三重奏
ということで、大きくは間違っていないと認識されています(もちろん例外は多々あります)。
料理屋でいえば、並ぶのに、高くてマズいレストラン?


そこでこの3点に注目するのが、ヘルスサービス研究ですね。
アクセスを向上し、質も上げ、かつコストも安くする必要があります。
早くて旨くて安くないと。


そこで日本の現状はどうでしょうか。
わかっていないこと多いんじゃないかな、と想像します。
その第一歩は、現状把握ですね。
店頭調査して問題を同定しないと議論のしようがない。


救急研究ネットワークでは、以前紹介した気道管理研究に続いて多施設の喘息研究が行われました。
今度はJEAN-3チームによる全国23施設後ろ向き研究です。


背景:喘息というのはコモンな割に、多くの救急医が興味をもちません。吸入してもらうのが主なので面白みにかけるのでしょうか?しかし、日本全国に何百万人という患者がいます。そしてこの慢性疾患は管理をしっかりすれば急性発作をかなり抑えることができるのです。そうですね。救急に来る喘息患者=管理に失敗した患者なのです。これを研究することは公衆衛生上とても大事。


目的:1380名の喘息患者さんから多くのデータを集めていますが、この論文
"Quality of Care for Acute Asthma in Emergency Departments in Japan: A Multicenter Observational Study"
では救急での喘息治療がどれほどガイドラインに則っているかを調査しています(喘息はガイドラインに沿った治療をするとよくなることが分かっている)。


結果:患者さんレベルでも施設レベルでも、おおきなガイドライン遵守度に違いがあることが分かります。特に全身ステロイドの投与あたりはかなりの改善が必要なはず。他にもいろいろ。
施設の因子として遵守度と関連したのは、喘息患者数。患者数と医療の質の関連は他の疾患でも知られています。しかしその機序は間違いなく複雑であり、患者数を増やせば質が上がる、なんて単純な話のはずはありません。質が上がれば患者数が増える?、それもこの分野ではなさそうです。おそらく同定できない医師/患者/システム因子の代理として、患者数が簡単に把握できるというだけ、という可能性のほうが高い。興味を持ったら、論文、読んでみて下さい。面白いですよ。


基本的には、米国の研究と同様の結果。
格差の原因にいくらかの違いはあるはずですが、日米似た課題を持っています。
あなたなら、どうアプローチしますか。

AAEMの売り?

ある学会の上級会員になりました!
Fellow in AAEM (FAAEM)です。


といっても、なんのことはない。
年会費のrenewalのお知らせもきたし、専門医だからしょうがなく学会費払うわけです(師走っぽい)。
ところがホームページに、「専門医で、年間費をちゃんと払えば、みんなFAAEMですよ」とのこと。
それって普通会員の間違いじゃない? と思ったのは僕だけではないはずです。



一方で、多くの学会はフェロー=上級会員になるということはとっても名誉なこと。
AHAのフェロー (FAHA)なんかはそんじょそこらではなれず、伝説的存在の人がやっとなれる感じ。救急で言えば、ACEP (アメリカの一番大きな救急学会)でも、FACEPになるにはかなりの実績と学会への貢献が必要です。審査もしっかりあって、選ばれるとパーティーまでしてくれるようです。



ところでAAEMは閾値が全く違うようです。
AAEMには毎年学会に行くような律儀なファンがいる一方で(僕は違います)、その勢力は小さく、お金もない。実際、冊子の紙質が悪い。Fellow (FAAEM)の閾値がとことん低いのは、1つの会員+会費獲得戦略なのでしょう。



AAEMはアメリカでいえば新興の小さな学会。それが巨象(ACEP)と戦うのは難しいはずです。Fellowshipの基準についても、学会内でも議論になったんだろうと想像してしまいます。AAEMは救急医の立場を守る意味でスジを通したいい仕事をしています。僕はお世話になった人が運営者ということ、そして判官びいきで年間費を払っています。AAEMには頑張ってほしいのです。

気道管理における施設差

医療行為自体そして質に地域差、施設差があることは良く知られています。
米国の救急医療でも
病院前心停止の救命率の差(これはマズいというくらいの格差。アラバマの路上で心停止したくありません),
喘息発作へのガイドライン遵守度のバラツキ
などなど、例をあげるのに困ることはありません。



おそらく日本の救急医療でもあるはずです。しかしまだまだその実態は明らかではありません。
そこで、救急のドグマ-ABC-のAirway (気道管理)に注目したスタディがあります。
日本の若手研究者による多施設前向き研究(Japanese Emergency Airway Network-1 [JEAN-1])スタディを利用した研究があります。昨年までに4000件以上の気道管理症例を蓄積。

Emergency airway management in Japan: Interim analysis of a multi-center prospective observational study.
その中間解析である論文では、
 挿管方法(例:rapid sequence intubationの施行率は施設によって0%-79%)、
 施行一回めにおける成功率(40%-83%のばらつき)
 施行三回以内の成功率(74%-100%のばらつき)
などに大きな施設差が報告されました。



ところで「施設差がある」ということはどういうことなのでしょうか。
確かに多くの患者因子、施設因子が影響していることでしょう。
救急外来での気道管理のように確固としたエビデンスがいまだ確立されていない分野では、医師の裁量が大きくなることもあります。しかしそれだけではないはずです。


差がある=改善の余地がある、ということです。
ある場所はよりベスト・プラクティスに近く(ベストかどうかは不明)、
一方である場所はそこに届いていないということ。



まずは現状を測定することから医療の改善は始まります。
次に、その差のdeterminantは何なのか、
ベストなプラクティスは何なのか、
それをどう現場に落とし込むのか、
その知見によってどんな介入をするのか、を考える。
そしてまた介入の結果の測定をする訳です。



救急気道管理に関しては仲間の研究が大きな一歩となるはずです。

医療系アプリ

スマートフォンipadにのるアプリ。
これによる医療への介入は日本でも進んでいますよね。
病院前での試みなどは上手くいっているものもあるようです。



Wall Street Journalに簡単な特集。有名なのから、これから伸びそうなものまで。
Health-Care Apps for Smartphone that Doctors Use.



変革の時代です。

ネタを探す。

こちらの暮らしも6年。
生活に新鮮さも薄れ、ここに書くことも少なくなってきました。


生活の8割は研究に費やしていますが、
人の思うほど派手な仕事ではまったくありません(誰も派手などと思っていないですね)。


基本的にはメールを書き続け、
(日本人と全く違って)仕事を遅い米国人共同研究者の尻をたたき、
病院の弁護士と契約と金額の交渉をし、
パソコンに向かって論文を書き続ける、
という生活です。


さらに僕のように臨床を減らしている人間は当然、病院からの給料カットです。
なので食い扶持を稼ぐために採択率10ー20%のグラントを書き続ける(申請あたり準備に最低1ヶ月はかかる)のが日常。逆にグラントの一部は病院の懐に入ります。



確かに(年々、パイは減っているものの)米国の研究の土壌は厚い。
しかし、このような官僚的手続きのコストは膨大なもの。うちのボスはこれでは若い人が研究から逃げていくと嘆いています(まったく同意)。簡単な研究なのに、手続きだけで一施設あたり数ヶ月、何十万円という費用が飛びます。10年前は米国もこんなではなかったようですが。
まあ、愚痴をいってもしょうがないですね。これで食べているのですから、やるっきゃない。



研究生活はいたって地味なので、
これまでの知見をちびちび出していこうと思っています。