ハーバードER記

Ars longa, vita brevis.

アカデミアの就職活動

米国に限っては臨床留学の情報は増えてきているようです。

一方で、研究でも臨床でもアカデミアに職を得るプロセス(一人前のファカルティーとして)の情報は少ないようです。

 

 

そんななか、僕が友人(すみません、友人扱いしてしまって)の今村文昭先生が「カガクシャネット」に

「アカデミア永久職獲得まで(2) 自分を繕わずにアピールして」

というエントリを出しています。面白い!

 

 

これを読む限りは、医師においても科学者においてもアカデミアにポジションを得るプロセスは似ているのではないでしょうか。その選抜プロセスはレジデンシー(研修医)やフェローの選抜よりも狭い門で厳しい。そしてより自分と相手のマッチアップが望ましい。

 

 

僕の想像だと、構造としては(アカデミアに進む臨床医と研究者を対比すると)

 臨床医       研究者

レジデント   = PhD課程の大学院生

フェロー    = ポスドク

ファカルティー = ファカルティー (ここで一緒)

といった感じでしょうか(多分に間違っている?)。

 

 

どちらにしてもファカルティーに進むのが大きなステップアップのようです。

レジデントおよびフェローはあくまでtrainee (研修の身で一人前ではない)です。1年から数年間の期間限定ですし、人数も多く取ります(僕のレジデンシープログラムはブリガムと合同プログラムで15人/年。フェローは増えて5~10人くらいいます)。

 

一方でファカルティーはかなり状況が違います。

まずは採用する人数が少ない(新陳代謝の早いブリガム救急は年に数人、うちの病院だと数年に一人のみ採用。どちらも善し悪し)です。部門としてはファカルティーを一人雇うということは大きな投資。福利厚生を合わせれば一人にかかる費用は数千万円/年ですし、簡単にクビにすることもできない。そして部門の将来を決めていく人材。なので採用側も必死です。

 

 

うちの部門だと、まずは医学雑誌に広告して募集。書類選考を経たファカルティー候補には二日がかりの面接という流れ。飛行機代+ホテル費用を出してくれて、到着後まずはdinnerを部門長とご一緒。次の日に部門の様々なリーダーシップと30~60分の面接。という長丁場。胃が痛くなりそうです。

 

 

僕が知っている日本人救急医でこのプロセスを経たのは二人だけ、シアトルのW先生とミネソタ大学のH先生。すごいなあ。僕は単なる幸運だけで就活/面接もなしに職を貰っているので参考になりません。

 

 

 

 

"No"という作法 に弱点!

先日、

「"No"という作法」というエントリーを書きました。

その最大の弱点は、メンターから仕事が廻ってきた場合です。

この場合は必殺技である「メンターに相談してみます」が使用できません。

 

 

早くも自分がこのパターンにはまりました。

どうやらScientific American (米国大手の科学系出版社)が医学の成書(内科、救急など)を出版するということ。

 

Scientific American: Press Room - Scientific American

 

このチャプター、締め切り一週間前になってメンターより丸投げ。。。

彼は正直な人間なので、「忙しくてやる暇がない」「もう教科書はさんざん書いたのでもうやる気はしない」とはっきり言います。「お前のキャリアの役に立つ」と一応付け加えることは忘れません。しかしながら、どうせ投げるならもっと前に投げて欲しかった。

 

 

もちろん、そのチャプターを書くことは光栄なことなのですが、原著論文を書く営みと、総説やチャプターを書くことは全く違います。そしてその後者に面白みを感じることがあまりありません(これは僕に限ってね)。

 

 

読者にとっても、僕のキャリアにとっても重要なこと。自分に鞭打っていこうと思いますが、早速ここで現実逃避しています。

今週のNEJMケース

今週のNEJMのケースは

昨年のボストンマラソン事件の犠牲者の一人。

 

Case 11-2014 — A Man with Traumatic Injuries after a Bomb Explosion at the Boston Marathon

とても読み応えのあるケースレポート。

 

 

 

チームの医師から「我々が改善出来る部分は何かあるか?」と聞かれた

この患者の最後の一言が秀逸です。

"I can't think of anything, except maybe the food."

 

 

 

今年のボストンマラソン

僕はコース上のmedical tentで医師として参加です。

 

 

HBRよりプレゼンの極意

HBRは時々面白い記事がありますよね。

 

ちょっと古いですが、TEDのcuraterで有名なChris Andersonによるプレゼンの極意。

 

How to Give a Killer Presentation - Harvard Business Review

 

 

なかなかオススメです。

長谷川耕平

利根川進

「一人の科学者の一生の研究期間なんてごく限られている。


研究テーマなんてごまんとある。ちょっと面白いなという程度でテーマを選んでいたら、本当に大切なことをやるひまがないうちに一生が終わってしまうんですよ。


だから、自分はこれが本当に重要なことだと思う、これなら一生続けても悔いはないと思うことが見つかるまで研究をはじめるなといってるんです。科学者にとって一番大切なのは、何をやるかです」

"No"という作法

後期研修が終わったあたりから、
いろいろな依頼を受ける人が多いのではないでしょうか。
例えば、商業雑誌の総説だったり、本のチャプターだったり、レクチャーだったり。



受けた話は断らない"Say Yes" policyもありだと思います。
それを勧める指導医もいますし、それも利点があります。



一方で、人生の時間とエネルギーは限られているから、
やりたいと思ったことを全てやることはできない。選択する勇気と戦略は大事。
何に対して、どうやって、"No"と言うかは重要な問題。




しかし、これも自分が5-10年後にどうなりたいのか、ということによる。例えば、研究者として一人前になりたいなら "say Yes"ポリシーは問題になる、と僕は教わっています。(注:草サッカーレベル研究ではなくて、プロサッカーレベルを念頭にしています)



こんなことを言う人もいます。
「臨床も教育も経営もできて研究ができる人は存在しない。存在するのは、全て中途半端な人間だ。」
(注:もちろん全てバランスがとれる人材もとっても大事ですが、それは別の話題。ここの話題はスペシャリストとして突出したいと願っている人対象です)。



例えば、僕のように普通にレジデント/フェローを修了した医師がプロの研究者になろうとするのは大変なことです。高校野球しかやったことがないのに、転向してプロサッカー選手を目指すこととも言えます(僕はそう思っている)。MPHをとると臨床研究ができると思われる人もいるでしょうが、MPHでは中学サッカーレベル相当だと思います。



米国のアカデミックな病院では、臨床研修後にプロの研究者を目指す奇特な人もいます。
もっともコモンな経路は、

  • 臨床は週に半日〜一日だけに減らし、最低5年は研究に専念する(=給料も同時に80%減になるので研究助成金[採択率20%ほど]を勝ち取らないといけない)
  • その後も臨床などのdutyは半分ほどに減らし研究を続ける(もちろん助成金を勝ち取り続ける)
  • そして、R01グラントを取る(一人前の研究者の証)というもの。しかし、この採択率はここ10年で約50%→約10~15%まで低下。同時に一人前になるのにかかる時間も年々延長しているようです(初めてのR01をとるのは、普通に医学部を卒業した人でも平均40歳代前半)。

甘くありません。
プロの研究者は生活と人生を賭けて仕事しているんだから。



(何か突き抜けたい)若手ならば、有限の時間とエネルギーをレーザーのように何かに集中させる必要があります。セリエAのサッカー選手になりたいならば、野球とバスケのお誘いは断る必要がある、ということ。



そこで、何に、どうやって、"No"というか。
「何にNo」は、やりたいことが分かっていれば難しくはない(はず)。
しかし、「どうやってNo」は難しい。
とくに上司や知り合いの依頼を断るのは難しいことです。



いい方法をこの前教わりました。それは依頼を受けたら
感謝した後に「メンター(指導者)に相談してみます」と返答すること。
真摯で正直(ちゃんとメンターに相談して)である上に、もし断ったとしても個人的には失礼に当たらないはずです。



僕の手の内をばらしてしまいましたが、読者は少ないので大丈夫でしょう。